07

分厚い暗雲が立ち込める空。雷獣兄弟が棲み処にしている近辺はこのような空が広がり、絶えず唸るような雷の音が響いていた。その下で宙を滑るように滑空するのは、依然として彩音を抱く飛天だ。彼は両足に一つずつ備わった滑車で自在に空を移動し、その背後をついてくる弟の満天はかごめと共に黒雲に乗っている。 彩音は満天がかごめに手を出さないかと心配していたのだが、あいにくそれを確認する勇気までは持ち合わせていなかった。なぜなら、彼女がいるのは飛天の左腕の上。そこに座らされているだけの彼女に命綱などがあるはずもなく、飛天に掴まっていなければいつ落とされてしまってもおかしくない状況であるために自身のことで精一杯なのだ。 (いつまでこうしてればいいんだろう…か、顔が…近い…) 振り落とされないよう不本意ながら飛天の首へ腕を回している分、彼の顔がすぐ傍にあって落ち着かない。それがあってか、いつもより自身の心音がわずかに強く響いている気がした。 しかし、相手は四魂の玉のかけらを狙う者。自分たちの敵だ。それを自身へ言い聞かせるように考えるが、どうしても数分前に言われた“おれ好みだ”というあの言葉が脳裏にちらつく。 “おれの女にしてやる”とまで言い切っていたが、飛天は一体なにを考えているのだろうか。まさか、本気で言っているわけではないだろう。そう考えながらチラ、と飛天の表情を盗み見ると、それに気付いてか飛天の瞳がこちらを捉えた。次いでニヤリと、不敵な笑みを浮かべられる。それに大きく肩を揺らしては眉をひそめ、すぐさま逃げるように顔を逸らした。 ――その時、不意に飛天の動きが止められた。 「半妖だ」 「えっ」 呟くような飛天の声にぱっと顔を上げる。そして彼と同様の場所へ視線を落とせば、そこには自転車を担いで走る犬夜叉の姿があった。少し離れているため確認し難いが、自転車のカゴには七宝も見える。どうやら無事であったらしい。 それについ安堵のため息をこぼしそうになった刹那、飛天が手にしていた武器を大きく傾けた。同時に暗雲がゴロロロ…とひどく不機嫌な声を漏らす。そして飛天の武器の切っ先が犬夜叉へ向けられると、突如カッ、と眩い光が閃いた。 稲妻だ。それは目にも止まらぬ速さで落とされ、地面を穿つほど激しく犬夜叉へ襲い掛かった。 「犬夜叉っ!」 「ふっ、よけたか…」 不安に表情を歪める彩音とは対照的に口角を吊り上げる飛天。二人の視線の先の犬夜叉は、自転車を犠牲にしながらも七宝と冥加共々落雷をかわしこちらを見上げていた。誰にも怪我はない。それに彩音が再び安堵を滲ませると、わずかに高度を落とした飛天が犬夜叉を見据え、挑発的な笑みを浮かべて呼び掛けた。 「てめえかあ? 犬夜叉とかいう半妖野郎は…」 「彩音!」 飛天の言葉に返すこともなく、犬夜叉は目に留めた彩音の姿に声を上げる。 先ほど冥加から“雷獣兄弟はいい女を攫ったら、即刻喰ってしまう”という噂を聞いてしまったためか、彼女の無事を確認したその表情には一瞬だけ安堵のような色が現れていた。しかし、それも束の間。彩音が飛天の頭を抱き込むようにしているその姿を見て、次第に眉間のしわを深くしていく。 彼がなにを思ってそんな表情をしているのか。渦中の彩音にはそれを理解することはできなかったのだが、傍の飛天はなにかを感じ取ったかのように「へっ、」と侮蔑的な笑みを露わにした。 「そのツラじゃ女の話は本当らしいな」 飛天はそう告げながら横目で彩音の表情を盗み見る。それに彩音は思わず口をつぐんでしまうほどの焦りを胸にしたが、同時に飛天は再び犬夜叉へ向き直り、一切の躊躇いもなく大きな声を張り上げた。 「四魂のかけら、洗いざらいこっちに寄越しな! 惚れた女を助けたかったらなっ」 「惚…?」 飛天の口から飛び出した言葉に犬夜叉の表情が固まる。同時に閃いた雷光に照らされる彼の顔を見ていられるはずはなく、彩音はただ気まずそうにそー…と視線を逸らしていた。 こんなウソ、バレないはずがない。そう思ったのはどうやら彩音だけではないようで、後ろに控えていた満天の隣のかごめも逃げるように顔を逸らしていた。やはり無理があったのだ、そう思わざるを得ない状況に彩音が少しばかり引き攣った笑みをかごめに向ける。するとそれによってこの事態の元凶を把握したらしい犬夜叉がゆら~…と立ち上がり、彩音と同じく引き攣った笑みでかごめを睨み付けた。 「待てこら、誰が惚れた女だ」 「なっ、なに照れてんのよー。彩音のこと大好きって言ってたじゃないーっ」 「え゙っ」 「んなこと一度も言ってねーだろ! 彩音も信じてんじゃねえっ」 下手な芝居を打とうとするかごめと、それに本気で驚く彩音へ犬夜叉は怒鳴るように強く声を上げる。そのおかげで彩音は「だ、だよね。びっくりした…」と苦笑を浮かべながらなんとか納得した様子を見せていたのだが、犬夜叉だけはまだ諸々の納得がいっていないようで、「けっ、」と素っ気なく吐き捨ててはもう一度声を荒げるように言い張った。 「誰がおめーらなんかのために、大切なかけら渡すかよっ」 「…は? ちょっと待って、じゃああんたは私たちを捨てるとでも言いたいわけ!?」 「捨てるだあ!? それじゃまるでおれとおめーが、デキてるみてえじゃねえかっ」 「そうじゃなくても普通助けるでしょっこのバカ! バカ夜叉ーっ!」 「なっ…バカ夜叉ってなんだコラーっ!」 途端に彩音と犬夜叉の言い合いがヒートアップし、とうとうただの悪口へと発展したその時。さらに言い返そうとする彼女を遮るよう飛天から「彩音」と低く咎めるような声で呼びつけられた。途端、ビク、と体が強張る。ただ静かに見据えてくる目に気圧されるよう口をつぐめば、その目は一度深く閉ざされ、再び開かれると同時に眼下の犬夜叉へと向けられた。 「…かけらを持ってるって話だけは本当らしいな」 呟くようにそう言うと、飛天は不意に踵を返し背後にある満天の黒雲へ近付いていく。そして彩音をそこへ下ろし、自身へ近付けるよう彩音の顔をク、と持ち上げた。 「彩音。お前はここで待ってな。もし邪魔しようってんなら…容赦はしねえぜ」 触れ合いそうなほど近付き凄む飛天の表情は、思わず言葉を失うほどの恐ろしさを秘めた笑みが湛えられていた。ただ真っ直ぐ見つめてくる、緋色の瞳。声のトーンこそ変わらないのに、その瞳が本気なのだと、そう語っているような気がした。 たまらず小さく息を呑んでしまえば、飛天はフ、と違う笑みをこぼし、呆気なくその手を離して犬夜叉へ向き直る。そして自身の武器である矛を握り直し、犬夜叉へ向けてグ、と身を屈めた。 「ぶっ殺して懐探らせてもらうぜ!」 「けっ、返り討ちにしてやらあ!」 声を張り上げ、まるで地面を蹴るように飛び掛かる飛天に対し、犬夜叉も同様に叫びながら勢いよく鉄砕牙を引き抜いた。 「雷撃刃!」 「鉄砕牙!!」 互いに張り上げた声が響き、同時に彼らの武器が勢いよくぶつかり合う。途端、雷撃刃はその刃に纏う雷撃を周囲へ激しく放ち始めた。眩く強い光を伴うそれが不規則に乱れ、犬夜叉の足元を抉るように穿っていく。それだけではない。飛天が雷撃刃を押し込む力も並ではなく、犬夜叉にはそれを受け止め続けることが精一杯であろう様子が垣間見えていた。 「ふっ、おれの雷撃にいつまで耐えられるかな」 「くっ…でーい!」 飛天の挑発に歯を食いしばった犬夜叉は突如鉄砕牙を思い切り振り切って飛天の体ごと遠く払い飛ばしてみせる。だが滑車で自在に空を飛べる彼はすぐに体制を持ち直し、軽い身のこなしのまま一切余裕を崩すことなく笑みを浮かべていた。 「ふっ、馬鹿力だけはあるらしいな」 「(この雷獣野郎…ちっと厄介だぜ)」 飛天の悠々とした態度とは対照的に、表情を強張らせた犬夜叉は彼を睨みつけながら強く歯を食い縛る。これは今まで出会った妖怪たち以上に苦戦するだろう、否応なく現れるそんな思考を脳裏によぎらせてしまいながら、犬夜叉は自身を律するように両手で鉄砕牙を握り直した。 暗雲に覆われた空に、眩い稲妻が走る。 「なぶり甲斐がありそうだなてめえ。楽しませてもらうぜ」 絶えず余裕の笑みを見せる飛天が長い三つ編みを大きく揺らしながら告げる。それに対して犬夜叉は「けっ、」と強く吐き捨てると、鉄砕牙を構えるようにして同じく挑発の声を上げた。 「今までおれにそういう口利いて、楽しい思いをした奴は一人もいねーんだよ!」 「上等だ! おれの雷撃刃、たっぷり味わいなっ」 飛天はまるで犬夜叉の挑発を買うようにギャン、と勢いよく飛び込んでくる。それに犬夜叉が身構えかけた刹那、飛天は雷撃刃から放った雷撃で犬夜叉の足元の地面を大きく激しく破壊してみせた。 狙いは自分ではなく、その下――それに遅れて気付いた犬夜叉は咄嗟に地を蹴り、崩れていくその場から逃げるよう離れる。だが飛天が逃げる間を与えるはずもなく、彼は距離を取ろうとする犬夜叉へ向け、幾度となく雷撃刃を振るい襲い掛かった。 「それっ、ちゃんと受けないと死ぬぜ!」 「(くっ、飛天の雷撃刃…体に触れたらおれでも危ねえ…)」 絶えず足元を穿たれる状況に足を止められず、それでも懸命に鉄砕牙で雷撃刃を防ぎ続ける。息をつく暇もない。そんな緊迫した二人の戦闘に表情を強張らせるのは、黒雲の上から静かに見つめるかごめと彩音だった。 「犬夜叉…」 「せめて、あの雷撃さえなかったら…」 望むようにそう呟くが、視線の先のそれが消えることはない。どうにか妨害できればと思うものの、この場にそれを叶えられるような、武器になるようなものなどあるはずもなく。加えて飛天の“邪魔をすれば容赦はしない”と言ったあの冷たい瞳が脳裏をよぎって、どうしても体が竦むような感覚に襲われた。 だが、それでもやはり、このまま犬夜叉が追い詰められていく姿など見たくはない。一体、どうすれば… そんな思いを抱いたその時、隣から軽快な笑い声と大きな拍手の音が響かされた。 「ひゃ~っひゃひゃひゃ、頑張れ飛天あんちゃん」 振り返ってみれば楽しそうに笑う満天の姿が目に映る。さらにそれは「加勢するぞ~」と言って大きな口を開き、そこに眩い光を溢れさせた。これは、彩音たちを攫う前に放ったものと同じ砲撃―― 「ふ、二人掛かりなんて卑怯よっ。えーい!」 「で!?」 危機を察したかごめが咄嗟に声を上げると同時にドン、と音が響くほど強く満天の体を突き飛ばす。まさか邪魔をされるとは思っていなかったのだろう、その時すでに砲撃を放ってしまった満天は目を見開き、真っ逆さまに地面へそれを撃ち込みながら「おわーっ!!」と大きな悲鳴を上げた。そして地面を消し飛ばすよう大きな半球型の穴を穿ち、満天はその中央へ凄まじい音を響かせながら叩きつけられる。 「やった!」 「ナイスかごめっ」 地面に沈んだ満天の姿を見て喜ぶかごめに、彩音はついガッツポーズをしてしまうほど笑顔で彼女を褒める。しかしそれも束の間。主を失った黒雲は突然空気に溶けるようシュン…と消え去ってしまった。 「え゙。きゃーーっ!」 「いやーーっ!?」 当然支えを失った二人は真っ逆さま。その悲鳴に気付いた犬夜叉がすぐさま駆け付けようとしたのだが、「女の心配してる場合じゃねえだろ!!」と声を荒げた飛天に行く手を阻まれるよう雷撃刃を振るわれた。強く勢いのあるその一撃は重く、鉄砕牙で受け止めても後ずさってしまうほど。そのうえ間髪入れずして追撃されるため、犬夜叉は徐々に彩音たちから離されてしまっていた。 「お前らっ、おれが行くまで…なんとか頑張ってろ!」 「いや、私たち落ちてるんですけど!?」 「この状況でどう頑張れって…きゃっ」 「痛っ」 犬夜叉の無茶ぶりに反論したその時、二人揃ってボン、と腰を打ち付けた。どうやら着地できたようだが、あの高さから落ちたにしては衝撃があまりに少なすぎる。そう思いながら少し痛む腰を擦って振り返れば、自分たちの真後ろに満天の巨体が転がっていることに気が付いた。 恐らくはこの上に落ちて助かったのだろう。それを悟ると彩音は傍のかごめと顔を見合わせ、共に安堵のため息をこぼした。 しかしその直後、なにやら二人に被るほど大きな影が伸びてくる。その瞬間に硬直した二人は、軋む機械のようにゆっくりと背後へ振り返った。 「このアマーー!」 「「生きてるーっ」」 咄嗟に上げた悲鳴が重なる。同時に二人が慌てた様子で逃げ出せば、満天はドスドスと重々しい足音を響かせながら追いかけてきた――その時だった。 「狐妖術つぶし独楽!」 そんな声が響き渡り、突如満天の頭にドス、と独楽が乗った。思わず「ん!?」と声を上げた満天は動きを止め、同じく目の前の彩音たちもそれに目を奪われる。直後、独楽はギュルルル…と回転を増していき、どういうわけかほんの一瞬のうちに満天より何倍も大きく巨大化してしまった。 「ああ!?」 「なっ、なにこれ!?」 「かごめ、彩音、早くこっちへ…」 「七宝!」 満天同様驚く二人へ大きな声が投げ掛けられる。それは彩音の言う通り七宝のもので、その姿に気付いた二人はすぐさま満天が穿った穴から這い出し、そこで待っていた七宝と共に逃げるよう駆け出した。 「助かった…ありがとう七宝!」 「あんたすごい大技持ってんのねっ」 「ふっまあな」 駆けながらも感心の目を向けられる七宝だが、自信ありげなその言葉とは裏腹に声色や顔色はなんだか不安を感じてしまうような怪しげなものであった。よく見れば汗だって掻いている。それに彩音が首を傾げそうになった時、七宝の肩にいた冥加がピーン、と目の前に跳ねてきた。 「安心するのは早い。狐妖術は所詮まやかし」 「ま、まやかし? じゃああの独楽って…」 「幻に過ぎん」 はっきりと言い切られた言葉に不安を覚えて振り返る。そこでは巨大な独楽にガガガガと頭から圧し潰されて悲鳴を上げる満天の姿があった――だが、それもやがて大人しく、徐々に静かになっていく。 それもそのはずだ。あれだけ巨大化していた独楽が、キュルルル…と回転を緩めてあっという間に小さくなってしまったのだから。そうして元のサイズに戻った独楽は呆気なく満天の頭から転がり、地面へ力なくその身を横たえる。 「ね…ねえ…独楽、元に戻っちゃったけど…あれってやばいんじゃ…」 彩音が冷や汗を伝わせながら小さく引き攣った笑みでそう呟く間にも、その視線の先の満天の様子に確かな変化があった。なにやらひどく怯えた様子で、震える手を自身の頭へと伸ばしている。 独楽の衝撃によって抜けてしまったのか、よく見ればそこにあったはずの一本の髪の毛がなくなってしまっている。それを確認しているらしい満天は確かに自身の頭に触れ、突如なにかが弾けたようにその目を強く見開いた。 「おーれーのー髪ーーーっ!!」 満天の悲痛な叫び声が上がった次の瞬間、穿たれた穴全体を覆ってしまうほど大きな砲撃がカッ、と放たれた。それだけでは飽き足らず、「よくも最後の一本を~っ!」を恨めしげな声を上げるそれは周囲へ何度も何度も砲撃を乱射していく。 「ちょっ、ウソでしょこれー!?」 「な、なんか火に油を注いだみたいな…」 「ぢぐじょ~」 怒り狂い辺り一面を破壊してしまう満天から彩音たちはより一層慌てて逃げ惑う。すぐ傍や真後ろで砲撃に穿たれた地面が抉れ、ガラガラと音を立てながら岩々が飛び散っていくのを感じる。そんな中で三人は隠れられそうな岩陰を見つけるとすぐさまそこへ駆け込んだ。 燃える木や土煙で周囲の様子は窺いにくいが、微かに聞こえる足音と「ど~こ~だ~」という満天の低い声がその存在を主張する。それを耳にしながら、三人はただ息を殺すように身を潜めることしかできなかった。 (見つかったら間違いなく殺される…とはいえ、ここに隠れ続けるのも限界がある…) そう遠くない場所をうろつく満天の存在を嫌でも感じては不安に鼓動が早くなる。まともな戦闘力や武器を持った人間はおらず、隙を見て逃げることさえ叶いそうにないこの状況。成す術のなさに焦りばかりが募っていく。バクバクと荒く激しく響く鼓動が煩わしい。 額に滲む汗を拭いながら眉根を寄せたその時、満天の様子をこっそり窺っていたかごめがふと七宝に耳打ちをし、次いで彩音の裾を引きながら耳を貸すよう手招きをしてきた。 「あたしに策があるの」 そう呟くとかごめは七宝の時と同様に耳打ちで“策”を教えてくれる。それを聞いた瞬間こそは驚きなにを言い出すのかと疑ってしまった彩音だが、決意に溢れたかごめの瞳をしばらく見つめては止める気も失せ、かごめを信じるようにしっかりと頷いてみせた。 「ん~?」 不意に、満天の鋭い眼光が岩陰へ向けられる。彩音たちの声を聞きつけたのか、なにかを感じ取った満天は即座に口を開き「そこかーっ!」という怒号と共に砲撃を放った。 その瞬間そこにあった岩は粉々に砕き散らされ、瞬く間に炎が燃え盛る荒れ地へと変わり果ててしまう。炎に包まれた倒木がバチバチと激しい音を立てる中、その向こうで炎に囲まれて倒れる女の姿があった。 かごめだ。 「このアマ~おれから逃げられると思ったのか~」 横たわる彼女の傍へ歩み寄り、グイ、とその髪を掴み上げ顔を伺う。その瞬間、目を開いたかごめはニヤ、と怪しげな笑みをこぼした。 「このツルっぱげ野郎…」 「な゙っ…」 「お前の好きな髪の毛じゃ!」 その声に伴い、髪が満天の腕を絡めとるように巻き付いていく。そう、満天がかごめだと思っていたそれは“かごめに化けた七宝”であったのだ。そうとは知らずにまんまと罠に掛かった満天が狼狽え身動きが取れなくなった姿を窺い、それぞれ対になる場所に潜んでいた彩音とかごめが息を合わせるよう立ち上がった。 ――その時だった。

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