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七宝の目論見どおり、彼が蒔いたキノコを見つけた犬夜叉たちは、そこでようやく七宝がいないことに気が付きながら転々と続くそれを辿っていた。 それと同じ頃、洞窟から連れ出された彩音たちは武装した妖狼族とともに天高くそびえる大きな岩山へ訪れていた。遠くに見える山頂には極楽鳥らしき小さな影がいくつも飛んでいる様子が見てとれる。 それを真下から多くの妖狼族と揃って見上げる彩音は鋼牙に肩を抱かれ、これから始まるであろう戦争に冷や汗を滲ませた。その時、肩を抱く手にわずかな力が込められる。 「極楽鳥ども、おれたちに気付きやがった。てめえら、ザコは任せたぞ」 「おう」 鋼牙の呼びかけに男たちが意気込むよう応える。その中には心配そうにこちらを見つめるかごめと七宝の姿も見られた。 どうやらかごめは麓の方でかけらの気配を探るよう指示されたらしく、男たちとともに行動することになったという。絶対に二人を危険に晒さないで、と彩音が強く念を押してはいるのだが、荒々しい彼らがちゃんと従ってくれるのか分からずどうしても不安を抱いてしまう。 だがそんな心配をしている暇もなく、頭上からは群を成した極楽鳥が一斉にこちらへと向かってきているのが見えた。それを目にした瞬間、鋼牙は彩音の腰に腕を回しその身を強く抱え込む。 「よっしゃあ。行くぞ彩音!」 鋼牙は意気込むように上げたその声を皮切りに強く地を蹴ると、山肌を跳ぶように勢いよく駆け上がっていく。そこへ迎え討たんとする極楽鳥たちが大きな口を開いて襲い掛かってくるが、怯むことなく強く振るわれた鋼牙の拳がそれらを容易く蹴散らしてみせた。 それは一度のみならず、極楽鳥が襲いくるたびに何度も繰り返されて彩音の体は不安定な状態のまま激しく揺さぶられる。それだけに留まらず、散らされた牙や肉片、羽根といった残骸が幾度も顔や体に当たり恐怖心を体の奥底から引き摺り出されるような感覚があった。 それでも、彩音は唇を噛みしめるようにして必死にそれを耐え続ける。 (早く…早く私がかけらを見つけないと!) 長引けば長引くほどかごめたちが危険に晒される。それを思っては己に鞭打つしかないと意気込み、降り注ぐ羽根たちを振り払った。 そんな時、不意に麓から「引きずり落とせ!!」という荒々しく力強い声が響く。それに釣られるよう視線を落としてみれば、そこには鉤縄などで強引に落とした極楽鳥へ武器を突き立てる妖狼族と、大きな鳥の足で狼を掴み上げてしまう極楽鳥が入り乱れ、壮絶で残酷な殺し合いが繰り広げられていた。 その光景に胸がざわつくような恐怖に包まれそうになったが、すぐにそれを押し潰すように手を握りしめた彩音は表情を引き締めて再び頭上に向き直った。そして迫りくる極楽鳥へ燐蒼牙を振るい翼を斬り付けると同時、鋼牙が極楽鳥の体を蹴落とすように強く弾き飛ばした。 「やるじゃねえか彩音。その調子でしっかり働けよ!」 「言われなくても!」 鋼牙の言葉に強く返しながら燐蒼牙を握りしめる。そして左から襲いくる極楽鳥を強く斬り付けると同時に蒼い炎で焼き、その瞬間正面から迫る極楽鳥は鋼牙が拳を叩き込んでその体を打ち砕いてみせた。 ともに力を合わせれば多くの極楽鳥を倒すことができ、親玉もすぐに炙り出せるはずだ。そう信じて意気込むように歯を食いしばった――その時、ゾクッ、と体の芯を震わせるような悪寒が迸って目を見張った。 「この感じ…気をつけて鋼牙!! かけらが目の前に…」 彩音が咄嗟に叫んだその瞬間、言い切られるよりも早く目と鼻の先である山肌にビシ…と大きな亀裂が走った。それも束の間、突如その亀裂を突き破るようにとてつもなく巨大な極楽鳥の口が飛び出してくる。 不意を突かれた鋼牙が思わず「うわっと!」と声を上げて間一髪飛び退けば、目の前では極楽鳥の親玉が山を貫くように大きな翼を広げてみせる。それによって崩れた岩が仲間の極楽鳥たちへ降り注ぐも一切構うことなく、親玉はついに岩山からその巨体の全貌を露わにした。 その姿はほかの極楽鳥とは比べ物にならないほど大きく、本体であろう上部の妖怪は二体の兄弟となっている。 「ぐぐぐ…待っていたぞ、妖狼族の小倅(こせがれ)…」 「! 待っていただと…?」 「ぐぐぐ…貴様四魂のかけらを体に仕込んでおろう。我ら兄弟はそれを狙っておった。それが貴様の方から出向いてくれるとはな…」 まるで鋼牙の行動を嘲笑うかのように笑みを浮かべる親玉兄弟。だが山肌に立ちはだかる鋼牙はむしろそれこそが好機だと言わんばかりに強気な笑みを見せていた。 「へっ、みんな考えることは同じってわけだ。彩音、奴の四魂のかけらは、どこにある」 巨大な相手にも臆することなく勝気な鋼牙は腕の中の彩音へ顔を寄せて問う。その声に彩音は目を凝らすようにして親玉の体を見つめるが、ポゥ…と淡く灯るその光の在り処に苦渋を滲ませるよう眉根を寄せた。 「あ…あの口の中、みたい…」 「なにい!?」 彩音の戸惑うような言葉に鋼牙が驚愕の声を漏らす。 そう、かけらの光は確かに巨大な極楽鳥の口の中にあった。光の位置からして外側から傷つけ奪い取ることは相当困難だろう。それこそ、あの巨体を真っ二つに切り裂かねば不可能だろうというほどに。 それを思い知らされた彩音が状況の悪さに小さく唇を噛めば、対する親玉兄弟は胡乱げな笑みをさらに深めた。 「ぐぐぐ、その通り…四魂のかけらが欲しくば…我らの口の中に入ってこい!」 「ひと噛みにしてくれる!!」 叫ぶように言い放たれると同時、突如視界を埋め尽くさんばかりの巨大な口が勢いよく迫ってきた。しかし鋼牙は寸でのところで彩音をきつく抱き寄せて跳び、極楽鳥に掠ることもなく仲間の元へと駆け降りていく。 そうしてこちらに気が付いたらしい仲間たちの「こ、鋼牙」という声を聞きながら、彼は抱えていた彩音を仲間たちの前に降ろして言った。 「てめえら彩音を守ってろ!」 「あ、ああ、だけど…」 「早いとこ決着つけねえと…」 「分かってる! あの化け鳥、口ん中引っ掻き回したる!」 そう声を上げた鋼牙は仲間の弱気な声を背にしつつ、足元の武器を拾い上げると同時に親玉の元へと駆け出す。だがその行動に愕然とした彩音が正気を疑うような思いで咄嗟に「待って!」と制止の声を上げた。 「まさかあれに一人で挑む気なの!?」 「ったりめえだ! おれしかあいつを倒せねえ!!」 彩音が無謀すぎるその行動を問いただすが、対する鋼牙は諦めるつもりも誰かの手を借りるつもりも毛頭ないようで強く言い返すなり躊躇いなく山を登り始めてしまう。 いくら鋼牙が四魂のかけらを三つも持っているとはいえ無茶だ。そう感じずにはいられない彩音が加勢すべく燐蒼牙を手に駆けだそうとするが、それは鋼牙の仲間である二人によって引き止められてしまった。 「駄目です姐さん、どこか安全なとこに…」 「でも…って、ちょっと待って。“姐さん”ってなに!? それ私のこと言ってる!?」 「決まってんでしょー。若頭の女なんすから」 「まだ決まってないから! 勝手に決めつけないで…」 当たり前のように言ってのける二人へ反論の声を上げた――その時、なにかが風を切る音が近づいてくることに気が付いた。直後、弾かれるようにその音源へ振り返れば、大きく口を広げた極楽鳥が彩音目掛けて勢いよく迫っているのを目の当たりにする。 それに思わず目を見張ると同時、極楽鳥に誰よりも早く気が付いたのは鋼牙の仲間である銀髪の男。彼は「この野郎!」と声を上げては手にしていた槍で極楽鳥の目元を突き込んでみせた。 だがその瞬間極楽鳥が抵抗するよう彼の腕を掴み込み、そのまま連れ去ってしまうよう大きく飛び上がっていく。 「たっ、助け…」 「うそっ、助けないと!」 「もう駄目っすよ! 巣に持ち帰って喰われちまう!」 いままでの仲間もそうされてきたのだろう、トサカ頭の男は驚愕の中に諦めを含んだ声でそう言い切ってしまう。 しかしそう聞かされたとて簡単に諦められるはずがない。どうにか助けなければ…そう考えて極楽鳥に届く飛び道具を捜そうと周囲を見回した。その時―― 「!」 突如背後から伸びる一筋の光。それは勢いよく進み、わずかなカーブを見せて極楽鳥の片翼を激しく断ち切ってみせた。それに伴いバランスを保てなくなった極楽鳥は力なく急降下していく。 その一連の出来事を見つめていた彩音が咄嗟に振り返れば、そこには弓を構えたかごめの姿があった。 「か、かごめ!」 「彩音っ、大丈夫!?」 互いの顔を見合ってはかごめが心配そうな表情で駆け寄ってくる。 あれだけ戦場の最前線にいた彩音だが、鋼牙のおかげか怪我はない。それを伝えるように「平気」と頷くと、互いの無事に安堵した二人はすぐさま極楽鳥とともに地面へ落とされた銀髪の男の元へと駆け出した。 「よかったあ、大丈夫!?」 「肩貸すから、早く立って!」 「す…すんません」 「なんかすげー」 怯む様子もなく毅然とした二人の姿、そして初めて目にするかごめの破魔の矢に男たちは呆然とするよう感嘆の声を漏らす。 だが悠長に感動している場合ではない。せめて岩陰にでも隠れなければ治癒も行えないだけでなく極楽鳥たちの格好の的だ。そう考えた彩音は一刻も早くこの場を離れるべく男へ身を屈めた。 しかしそれも束の間、ざわめく気配に気が付き振り返った頭上にはすでに複数の極楽鳥たちが群を成し一斉に急降下を始めていた。 その姿はすでに数メートル程度まで迫っていて。これでは今すぐに逃げ出しても間に合わない、そう瞬時によぎらせた彩音がたまらず覚悟を決めそうになった、その時―― 「彩音ーっ!」 「!」 突如力強く響かされる、待ち望んでいた声。 それに目を見張ると同時、眼前へ飛び込んできた紅白は迫ってきていた極楽鳥の全てを一撃で両断してみせた。それにより無残に散らされた無数の羽根が降り注ぐ中、呆気にとられるままその光景を見つめていた彩音はかごめがその名を呼んだことでようやく我に返った。 求めていたその姿に、瞳を揺らがせる。 「犬夜叉…犬夜叉っ!」 「彩音っ…」 確かめるように名前を呼べば焦燥感を露わにした彼が振り返る。 間違いない、犬夜叉だ。来てくれた。そんな強い安堵に包まれたせいか彩音はその場に崩れるよう座り込み、一方でかごめは耐えかねたように彼の胸へと飛び込んだ。 「わああこわかったー!」 「かごめ…お前ら、ケガはねえか!?」 “お前ら”、そう言いながら犬夜叉は心配そうにこちらを見る。彩音はそんな姿に表しようのない感情を抱きながら小さく笑むと、すぐに犬夜叉の元へ行こうと手を突いた。 しかし一度力が抜けてしまったせいか、うまく力を入れ直すことができずカクン、と体勢を崩してしまう。 「ね、姐さん! 無理はダメですって」 「向こうで休みましょうっ」 「あ…」 治癒後に倒れた姿を見ていることも相まってか、彩音の様子を見兼ねたらしい男たちがすぐに支えの手を差し伸べてくれる。それに持ち上げられるよう立ち上がったその時、すかさず「てめえらっ」と声を荒げた犬夜叉が駆け寄ってきて彩音の体を奪うよう強引に引き寄せた。 「彩音に触るんじゃねえ! 彩音、本当に大丈夫か?」 「う、うん。ちょっと力が抜けただけ…」 「そうか…くそっ、鋼牙の野郎はどこだ!」 相当心配していたのだろうか、犬夜叉は鋼牙の臭いを辿るよう嗅ぎ分けると同時に彩音の体をグ、と抱きしめる。まるで、もう離さないとばかりに。 そしてついにその視線が山の上へと向けられた時、そこに立つ鋼牙がこちらへ振り返りながら舌打ちせんばかりに強く顔をしかめている様子が窺えた。 「あの犬っころ…ややこしいところに出てきやがって」 たまらず疎ましげに漏らされる声。それが届かずとも、対する犬夜叉も同様の思いで歯を食いしばりながら鋭い瞳を鋼牙へ向けていた。 「(許さねえ。彩音を危ない目に遭わせやがって)」 込み上げる強い怒り。それに胸のうちを熱く埋め尽くされるのを感じながら、犬夜叉は決して手放さないように彩音の肩をグ、と抱き寄せた。 よろしければ感想などいただけると嬉しいです。
 

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