02

「逃がすか、ちくしょう!」 木々を飛ぶようにして駆ける犬夜叉が苛立ちを露わにした声を上げる。その視線の先には一度見失った死舞烏の姿。小さくも確かにその姿が見える距離までようやく追いつくことができた二人は、もう決して見失わないようそれを強く見つめていた。 その中で彩音は弓を握り締め、矢筒から一本の矢を取り出し構えようとする。だが弓矢を触るなど初めてのこと。その上移動する犬夜叉の背中という不安定な場所のせいか、思うように狙いが定まってくれなかった。 「なにやってる、早く射落とせ!」 「待ってよっ。揺れて手元が狂うの!」 「そんなもん、気合いでどうにかしやがれ!」 「はあ!? 気合い!?」 突拍子もなく根性論を放たれ、彩音は目を丸くするほど驚き耳を疑ってしまう。弓矢を初めて触る人の気も知らないで…ついそう思いながら顔をしかめるも、彩音はもう一度弓を構えようと強く握りしめた。するとそれを鼓舞するためか、犬夜叉が緊張感を含む声を上げる。 「あいつはなあっ、人間だけをエサにしてんだ。変化したらやばいんじゃねえか!?」 「っ…分かってるよ!」 犬夜叉の言葉で焦りに駆られ、つい声を荒げてしまう。彼の言うことは理解している、だがやはりこうも大きな揺れに手元を狂わされていては当てられるものも当てられないのだ。 どこか一瞬でも矢を射る隙ができれば…そう願うように構えていると、視線の先の死舞烏にわずかな動きが見えた。 飲み込んだのだ、二つの玉を。それを目の当たりにしては嫌でも覚悟を決めさせられる。 「私、やるよ!」 「よおしっ」 彩音の決意の声に犬夜叉は意気込むような声を上げる。だがその表情は直後に怪しげな笑みを湛える不穏なものへと変わっていた。 「(ふっ、屍舞烏を射落としたらこんな女に用はねえっ。地面に叩き落としてやる!!)」 犬夜叉が秘めるそんな企みなど露ほども知らず、彩音は手にしていた矢を持ち直してもう一度しっかりと構えてみせた。やはり手元が狂いそうになる、構えだって合っているのか分からない。様々な思いが頭の中でぐるぐると巡る中、彩音は懸命に死舞烏へ矢尻を向けやった。 「一発で決めろ! 外したらタダじゃおかねーぞ!」 「無理! 初めてだからたぶん外す!」 横暴な言い草に彩音がきっぱりと言い返した直後、犬夜叉はダン、と強く枝を蹴って今までよりも高く長く跳び上がった。落下の間は揺れが少ない、彩音はすぐに死舞烏へ狙いを定めると渾身の力で矢を引き付けた。 「当たれっ!!」 思いを乗せるように叫び、強く引いていた弓の弦を弾くように放す。その瞬間放たれた矢は勢いよく死舞烏へと迫った。 これならいける――そう信じた時、矢は屍舞烏のずっと上を真っ直ぐに飛んで行き、肝心の的には掠りさえしていなかった。 まるでアニメのように、空の彼方へきらんと消えていく矢。それを見届けた二人は硬直するように黙り込み、瞬く間に気まずい空気に包まれた。 「えっと……お…惜しいっ!」 「どこがだ!!」 あまりの結果に犬夜叉は食って掛かるように声を荒げてくる。どうやら彩音の矢は勢いこそあるものの、コントロールだけはすこぶる悪いようだ。それさえ補うことができれば射落とすことは容易なのだがここではその方法もなく、何度も何度も矢を放つが全て変な場所にしか飛んで行かなかった。 「下手くそ! それでも美琴の生まれ変わりか!?」 「うるさいなあっ。美琴さんがどうでも、私には関係ないってば! ほらっ、今度こそ当た…」 「当たらねえじゃねえかっ!」 彩音の自信とは裏腹にどこかへ行ってしまう矢を見て、犬夜叉は痺れを切らしたように怒鳴り上げる。どれだけ試そうがなぜか当たる兆しが見えない。そんな状況にお前が下手だからあんたが揺らすからと言い合っていると、その間にも死舞烏の体に百足上臈の時のような変化が現れ始めていた。 体は長く伸び、羽毛に覆われていたはずの体は質感を変える。伴うように翼や足が肥大化していくと、ついにはいくつもの牙が覗く口が大きく裂けるように広がっていった。 百足上臈同様、姿に大きな変化が現れたのは四魂の玉の力を得ている証拠だ。焦りばかりが募るその光景に彩音が唇を噛みしめていると、死舞烏が突如急降下していく様子が見えた。その辺りに見えるのはのどかな村。まさか人を襲いに行ったのでは、と胆が冷えるような感覚に襲われ、彩音はすぐさま犬夜叉に顔を寄せた。 「お願い犬夜叉! もっと急いで…」 「ああっ、小吉!!」 犬夜叉を急かそうとした瞬間、突如村の方から女の声が響き渡った。すると犬夜叉が疎ましげに表情を歪めて速度を上げ、今しがた悲鳴を上げた女の傍を勢いよく過ぎ去った。 「ちっ、変化が始まってるぜ」 そう呟くように言う犬夜叉は至極厄介そうに眉根を寄せる。見れば死舞烏は烏であった面影も見えないほどに姿を変えており、先ほど攫った小さな男の子を足に提げていた。 「あいつ、まさかあの子を食べる気…!?」 「言っただろ、屍舞烏のエサは人間だって。もっとも獲物ぶらさげてる分奴の動きが鈍ってる。好都合だぜ」 表情を強張らせる彩音とは対照的に犬夜叉はニヤッ、と怪しげな笑みを浮かべ、指を曲げて鋭利な爪を光らせる。そんな彼の姿に嫌でも“絶対よくないことを考えている”と予感させられた――次の瞬間、 「獲物ごと引き裂いてやらあ!」 犬夜叉はそう叫ぶと同時に体を捻るほど大きく爪を振りかぶった。しかしその狙いは死舞烏の胴体。そのまま爪を振り下ろせば、彼の言う通り男の子ごと全て引き裂いてしまう。 「なっなに考えてんのバカ!!」 途端に血の気が引くような感覚に慌てた彩音はすぐさま叫び上げ、強引に犬夜叉の体を押し退けるよう男の子へ飛びついた。犬夜叉がその直後に爪を振るうものの、虚しく空を切るそれに思わず「あ゙っ」と声を漏らす。彩音が男の子にしがみついたことで死舞烏の体が傾き、犬夜叉の爪は屍舞烏を掠めることすらできなかったのだ。 「てめえっ、なんでおれの邪魔を…」 怒りを露わに怒鳴り上げる犬夜叉だが、その目が捉えたのは彩音と男の子へ牙を剥く死舞烏の姿。四魂の玉さえ手に入れば彩音という女などどうなってもいい――先ほどそう思ったばかりだというのに、犬夜叉はこのまま手を下す気にもなれず強く舌を鳴らした。 「散魂鉄爪!!」 勢いよく振り下ろした爪が彩音たちの頭上を斬り裂く。するとそれに直撃した死舞烏の体はほんの一瞬でバラバラに砕け散り、地面に落とされる彩音たちの周囲へ無残に降り注いでいった。 彩音は打ち付けた腰の痛みに顔を歪めるも、掴んでいた屍舞烏の足を慎重に男の子の腕から取り外して。まだ生暖かくわずかに動くそれに顔をしかめながら、それでもなんとか笑顔を浮かべると男の子の頬の涙を拭ってあげた。 「もう大丈夫。よく頑張ったね」 「わーん!」 安心させるように優しく頭を撫でれば、男の子は途端に彩音へ縋りつき大声を上げて泣き出した。そこに慌てて駆け寄ってくる母親らしき女と村の男たち。彩音はそれらに男の子を引き渡すとすぐに犬夜叉の元へ駆けつけようとするが、それと同時に散らばる屍舞烏の残骸が微かにざわめきを見せ始めた。 「おい女!! 四魂の玉はどこだっ」 犬夜叉がそう呼びかけながら駆け出したかと思えば、その先には再生を始める屍舞烏の姿。瞬く間に元の姿へと戻ってしまうそれは、完治していないにも関わらずこの場を飛び去ろうとしていた。 このままでは逃げられる、そう焦った彩音はすぐに目を凝らし、犬夜叉に言われた通り四魂の玉の在り処を探った。 すると確かに見えた、ポウ…と灯る淡い光。 「二つとも羽の下にある!」 「くっ」 すぐさま彩音が指を差すも、犬夜叉が振るった爪は屍舞烏の尾をわずかに砕いただけ。それも直後には再生してしまい、あっという間に空高く昇ってしまう屍舞烏に犬夜叉は「ち、ちくしょう!」と悔しげな声を上げた。その速度にはさすがの犬夜叉も追いつけないのか立ち止まり、強く歯を噛み締めながら疎ましげな目で屍舞烏を睨視している。 「屍舞烏の野郎、四魂の玉を取り込むまで逃げ回るつもりだ」 「え…」 犬夜叉の言葉に嫌な鼓動が一つ響く。四魂の玉の効果が顕著に表れ始めている様子に犬夜叉の焦りも一層強くなっているようだ。 どうにかして四魂の玉を取り返さなければ、動きを止めなければ。気持ちばかりが逸り、浮かばない解決策に嫌というほど鼓動が早くなっていく中、ふと手の中でわずかにうごめく確かな感触に気が付いた。 (! そうか、これなら…) 握り締めていたそれに視線を落とした瞬間、今までの不安が自信に変わる。だが手を伸ばした矢筒に矢は残っておらず、そこにあるは一口の刀だけ。果たして刀が屍舞烏に届くのかという不安がよぎったが、この状況だ。背に腹は代えられず、すぐに襟元からスカーフを抜き取ってはうごめくそれを刀に括りつけた。 「犬夜叉お願い! もう一度背中に乗せて!」 「はあ? おめえなに考えて…」 「策があるの!」 犬夜叉の訝しげな声を遮ってまで放たれた力強い言葉。それに少し驚いた表情を見せる犬夜叉は眉根を寄せ、小さく舌打ちしつつも腰を屈めてくれた。すると彩音は犬夜叉の背に乗り込み、 「追いつかなくていい。屍舞烏より高く跳んで」 彼の耳元でそう囁いた。犬夜叉は再び眉をひそめ訝しげな表情を見せたが、静かに屍舞烏を見据えると「これでヘマしやがったら容赦しねえぞ!」と怒鳴るように言い放ち大きく跳び上がった。 早くしなければ屍舞烏が四魂の玉を取り込んでしまう。二人が同じく感じる焦りに駆られるよう目先の敵を睨視し、握る手に強い力を込める。徐々に徐々に、縮まる距離。しかしそれ以上に早く、心は嫌な緊張に蝕まれ続けていた。 ――その時ダン、と一際大きく音を響かせた犬夜叉は、これまでと比べものにならないほどの高さへと跳躍した。 「行っけえ!!」 確信を得ると同時に、渾身の力を込めるよう叫び上げながら刀を投げ放つ。それは凄まじい勢いで飛んでいくが、やはり屍舞烏から軌道がずれていた。その光景に犬夜叉が舌打ちをこぼしかけたその瞬間、刀はググ…と屍舞烏への軌道を自ら修正してみせた。 「(刀に屍舞烏の足…!!)」 わずかに驚く犬夜叉が目にしたのは、刀にしかと括りつけられた屍舞烏の片足。男の子の腕からそれを回収していた彩音は、屍舞烏の再生力を逆手に取って利用したというのだ。 そして彩音の目論見通り、刀はドス、という鈍い音を立てて勢いよく屍舞烏の胴体を貫いた。直後、屍舞烏の体はそこから破裂するようにパン…と乾いた音を立てて粉々に砕け散る。 「よしっ!!」 狙い通りの結果に思わずガッツポーズをしながら表情を明るくする彩音。だが次の瞬間、なにかがカ…と凄まじい光を大きく閃かせた。 まるで空を覆ってしまうかのような強い不思議な光。それは瞬く間に四方八方へ細い光の線を伸ばし、やがて虚空に溶けるよう静かに消えてしまった―― ザザッ、と音を立て森の中を勢いよく駆けていく。あれからというもの、二人は砕け散った屍舞烏の体を捜しているのだがそれが中々見当たらない。そのうえ犬夜叉には四魂の玉の気配が分からないらしく、再び背中に乗せられた彩音が懸命にその気配を探りながら案内している状況だった。 (…さっきの光…なんだったのかな…) 掻き分けられていく草木を見つめながらも、その意識は先ほどの光のことばかり。妖怪を貫いただけであのような光が放たれるとは思えず、どうしても不可解な気がしてならないのだ。かといって他に原因が思いつくかと言われればそうでもない。ただ胸の奥深くで芽生える微かな嫌な予感だけが、ずっと心の平穏に荒波を立てていた。 「おい、本当に玉はこっちにあんのか!?」 「え…う、うん。そんな気がする」 突然の問いかけにそんな曖昧な答えを返せば、犬夜叉は不機嫌そうに「気がするって…おめえなあっ」と苛立ったように声を荒げてくる。だが実際に曖昧なのだから仕方がない。なんだか今までよりも気配が薄いような、小さく感じるような気がするのだ。 おかげでさらなる不安を煽られてしまい、彩音が嫌な汗を滲ませた――その時、突如頭上から勢いよく草木を掻き分けるような音が響かされた。 「屍舞烏!?」 「なっ、首だけ…!?」 見上げたそこに迫っていたのは、首だけとなりながらも大きな口を開き襲い掛かってくる屍舞烏。そんな不気味な姿に目を丸くした彩音が絶句すると同時、犬夜叉は好機と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた。 「ふっ、やっと向かってくる気になったかい。往生しやがれ!」 そう叫ぶと犬夜叉は勢いよく飛び掛かり屍舞烏の首を強く叩き込んでみせた。呆気なく散らされた肉片が宙を舞うそんな中、生々しいそれらとは違う、小さく光るなにかが垣間見えた気がして。彩音はやけに目を引いたそれに眉をひそめると、転がったであろう場所へそっと歩み寄った。 「玉は…」 叩き潰したそこに見つからなかったからだろう、ひどく焦った様子で振り返ってきた犬夜叉にそんな声を向けられたが、彩音は言葉を返すことができず。ただ摘まみ上げたその小さなものをそっと犬夜叉に差し向けた。 「ね、ねえ、もしかしたらこれ…かけら…じゃないかな…」 「はあ? なんのだよ」 「だからその…四魂の玉、砕いちゃった的な…?」 「な゙っ…」 小さく乾いた笑みを浮かべ、目を瞬かせながら語る彩音に犬夜叉が愕然と目を見開く。まさか玉が砕けているなど、微塵も予想してはいなかったからだ。 屍舞烏を貫いた時に閃いた光、あれは四魂の玉が砕けたことで放たれたものなのかも知れない――そう推測した彩音は途端にひどく渦巻く不安を胸に、透き通る小さな小さなかけらをただ見つめ続けていた。 * * * 二人は気もそぞろなままかごめを迎えに行き、すぐに楓の元へと戻っていく。そして誰もがあの光に不安を抱いたまま迎えた夜、楓の家からは痺れを切らした犬夜叉の怒鳴り声が大きく響き渡ってきた。 「どうなってんだよっっ」 「そう吠えるな、犬夜叉」 「玉はどーなったんだ、玉はっっ」 彩音から一連の出来事を聞き一人納得する楓の様子が気に食わないのか、犬夜叉は問い詰めるように何度も食い掛かっていく。その気持ちは彩音とかごめも同じだ。不安ばかりを募らせ答えを求めるように楓を見つめていれば、真剣な表情を見せる彼女は静かにこちらへ向き直ってきた。 「彩音。お主は刀に、破魔の力を込めていたのではないか?」 「え…? あ、あの時は、玉を取り戻すことでいっぱいだったから…」 よく分からない、そう言いながら彩音は刀を投げた右手を見つめる。破魔の力と言われても、それがどういうものなのかすら分からず、刀に込めたかどうかも実感ひとつなかった。それを伝えるように不安げな瞳を再び持ち上げると、楓は小さく頷いてその口を開いた。 「恐らくは無意識だったのだろう。破魔の力は妖怪を滅することができる。故に彩音の放ったという刀は、破魔の力で物の怪ごと四魂の玉を打ち砕いた。すなわち玉の破片がこの世に飛び散ってしまったということだよ。体内で玉が一つになってくれていればいいのだが、それでも十に砕けたか百に散ったか分からん。例え一欠けでも、強い物の怪の手に渡れば災いの元となろう」 神妙な面持ちで諭すように語られた言葉は耳を疑うような壮絶な事態。それは撃ち落とすことに必死で、容赦なく刀を放ってしまった自分が原因――そんな思考が浮かんでは、胸のうちに渦巻く不安が彩音を苛んでいく。 しかしあの場で刀を放たなければ、四魂の玉は確実に屍舞烏に取り込まれていた。自分があの方法を取ったことに間違いはなかったはずだ。他になにか方法などあっただろうか。どうすれば玉を砕かずに済んだのだろうか。 たまらずそんな思考をぐるぐると巡らせるが、今となってはもうあとの祭りだ。なにを考えたところで、迎えてしまったこの事態を今さら変えることはできない。 その思いに至ってしまっては、申し訳なさに言葉を失うしかなかった。すると楓は改めて三人へ向き直り、特に彩音へ言い聞かせるよう真剣な眼差しで語りかけた。 「だからよいか、彩音、かごめ、犬夜叉。お主ら三人の力で四魂の玉のかけらを元通り集めるのだ」 「え…?」 「玉を…元通りに…?」 呆然と、それでも確かに衝撃を受けながら楓の言葉を繰り返す。そんな彩音の隣では犬夜叉ただ一人だけが笑みを浮かべ、「へっ」と笑い飛ばすように挑発的な声を向けた。 「いーのか? 楓ばばあ、おれも玉を狙ってる悪い奴なんだぜ」 「…今はやむを得ん」 意地悪く笑む犬夜叉へ楓は渋々といった様子で目を伏せる。それもそのはずだ、砕いた罪滅ぼしとして彩音だけに探させたところで、妖怪と渡り合えるような戦闘力など持ち合わせていないため不可能に等しい。だからと言ってかごめと合わせてもそれは変わらず、犬夜叉一人では気配を感じ取れないうえに自分のものとして持ち去ってしまうだろう。結果、三人が互いを補い合うように行動しなければ、四魂の玉を元には戻せないと楓は思ったのだ。 その提案に犬夜叉は四魂の玉が手に入るかもしれないと乗り気であったが、対する彩音とかごめはひどく顔を強張らせていた。 (なんで…私とかごめには、元の世界があるのに…) 彩音は四魂の玉を砕いてしまったという後悔こそあるが、二人ともこの世界に勝手に巻き込まれたようなもの。早く帰りたいと願っていた矢先に、ここに留められるような事態は当然願い下げであった。 しかし今さら断ることを許さない緊迫した空気に圧され、二人は反論ひとつできないまま静かに黙り込んでしまう。 一体、かけらを全て集めるのにどれだけの時間を要するのだろう。本当に全て集めることなどできるのだろうか。それらの不安や疑問に答える者はおらず、誰一人としてこの先に待つ壮大な物語を予想することなどできないのであった。

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