日常の一端
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「#name#、膝貸してくれ」 「膝?なんで…」 「いーからいーから」 蛮骨は突然やってくるなりそう言って、私の答えを聞くまでもなく膝の上に頭を乗せてくる。これほど甘えてくることも珍しくて、私は読んでいた本を閉じるとそっと傍に置いた。 「急にどうしたの? なにかあった?」 「最近よお…蛇骨が女をみーんな殺しちまうせいで、ちっとも遊べねえんだよ」 あいつの女嫌いも困ったもんだよなあ、そう言って蛮骨は退屈そうに眉根を寄せる。そういえば今日も戦に出向いていたんだっけ。この様子だとこの前もその前も、そして今日も蛇骨に邪魔されちゃったんだろうな。 …とはいえ、私にこうやって接してくることはやっぱり珍しい。あまりに邪魔されるから限界がきて、近場の私で気を紛らわせようとでも思ったのかな。 なんて予想をしていると、ふと蛮骨から「…つっても、」と呟く声が聞こえた。 「最近は、そこらの女で遊ぶ気にもならねえんだよな」 「そうなの? 女遊び好きだったじゃん。飽きちゃった?」 「んー…なんつーか…」 いい言葉が思いつかないのか、蛮骨は歯切れの悪い言葉を漏らしながらぽりぽりと鼻を掻く。同時に少しだけそっぽを向いた蛮骨の目は、やがて私の目を覗き込むように向き直された。 「お前がいれば、それで十分みてえだ」 サラ、と私の髪を緩く梳きながらそう言う蛮骨の表情は、どこか悪戯っぽさが見え隠れする優しい微笑みだった。 私は思わずびっくりして目を丸くしたまま、言葉を忘れたようにしばらく固まってしまう。けれど胸の奥には嬉しい気持ちが芽生えて、みるみる内に胸は温かくなって。 気付けば自分でも分かるくらい、頬が緩んでしまっているような気がした。 「なんだよ、だらしねー顔」 「そんなこと言ったって、嬉しいんだもん」 「こんなことが、か? 単純な女だなあ」 そう言って同じように頬を綻ばせた蛮骨は小さく笑う。すると私もどこか釣られるように、二人して他愛もなく笑い合っていた。
- - - - - - 蛮骨とのほんわかしたお話が書きたかったんです。 彼らにはわちゃわちゃと騒がしくも幸せな日々を送ってほしいですね…。 2018.12.12:twitterにて掲載。