また君の傍に
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所詮戦国時代。 医療なんて全然発達していないこの時代では、一度重い病気に掛かると死を覚悟しなければならなかった。 果てしなく広がる青い空。 向こう側がほんのりと赤みがかってるから、時計なんて見なくても大体の時刻は分かる。 そんな他愛のないことを考えている私は現在、村で流行っているたちの悪い病気に侵されていた。 体が重くて動きづらい。 息をするのも苦しいくらい。 生きてる方が地獄なんじゃないかと思うほどに辛かった。 そんな私をいつも傍に置いてくれていた殺生丸は、最近悲しそうな目を私に向けてくる。 仕方ないよね。 だって私、そろそろ死んじゃうんだから。 「ねえ…殺生丸…?」 「何だ…」 「私が死んじゃったら…殺生丸はどうする…?」 「またそれか…」 目を伏せて小さくため息をこぼす殺生丸。 ごめんね。 やっぱりこんな状況に置かれると、同じことを何度も聞いてしまうの。 だから殺生丸が何て答えるのか、もう私は分かってる。 「「#name#を死なせはしない」」 ほらね。 決まってこの言葉を言う。 でも無理なの。 私は病気に侵されているんだから。 殺生丸が今何をしたって、この病気は治らない。 この時代の名医って言われる医者に看てもらったけど、もう今日でこの命とはさようなら。 今更現代に戻ったって手遅れなの。 それに私は…過去に天生牙で命を吹き返させてもらった身。 もう死ねばそこで終わり。 自分自身が情けなく感じて来た私は、鉛のように重い腕を殺生丸の方へ、空の方へ向けた。 「最期にお願い…聞いてくれる…?」 「……、聞こう…」 私が言った"最期"と言う言葉が気にくわないのか、ほんの少し怪訝な顔をした。 それでも私の要求を聞こうとする殺生丸はすごく優しいと思う。 「最期に…抱きしめて、欲しいの…」 ああ、本当に息苦しくなってきた。 喉の辺りで息が詰まる。 呼吸の仕方を忘れてしまいそう。 「#name#…」 掠れてきた私の視界に、苦痛に歪めた彼の顔が映った。 そんな顔しないでよ。 殺生丸らしくないじゃない。 そんな言葉の代わりに小さく苦笑して見せると、私の体は強い力で抱きしめられた。 苦しいはずなのに、心地いい。 「#name#…」 「殺…生、丸…」 暗くなっていく視界。 遠ざかる私の意識。 記憶が走馬灯のように段々と見えてくる。 「あり…がとう…」 「#name#…」 「さよな、ら…殺生、丸…」 温度が下がる私から、一筋の熱い涙が滲み出た。 私、殺生丸に愛されて幸せだった。 色んなことが出来て、楽しかった。 殺生丸に出会えて、嬉しかった。 「…大好き……」 さようなら、私が愛した日々。 生まれ変われたら、また君の傍にいたいな。 end.