◆ 過去より今を
私は親同士の関係で、幼い頃から殺生丸と会ったりすることが結構あった。
殺生丸はいつも落ち着いてて。
子どもだけで遊びなさいと言われ残された私は、殺生丸と遊ぶと言うよりも話し掛けることの方が多かった。
「殺生丸はいつも何を考えてるの?」
「何も考えてはおらん」
「そう?私には何か考えてるように見えるなあー」
そう言いながら、どこかを見つめる殺生丸の顔を覗き込んだ。
年齢なんてほとんど変わらないのに、殺生丸はすごく大人びて見える。
それがどこか羨ましくて…どこか、好きだった。
「ねえ、私がけっこんしたら、殺生丸はどうする?」
「結婚など出来るのか?」
「んー…、…むりかも」
よく考えてみれば、私には結婚する相手がいない。
だから結婚も出来ないのだ。
私はその話をなかったことにするかのように笑って見せた。
「けっこんなんてまだ早いもんねー。あ、でもいつかはしてみたいなあー」
「………」
「殺生丸?」
「…その時は…」
急に黙り込んだと思えば、ぽつりと言葉をもらす殺生丸。
その先の言葉が何なのか知りたくて、私は黙って殺生丸を見つめていた。
「その時は、私が#name#を嫁にもらってやる」
彼方を見詰めていた視線が私へ向く。
黄金色の綺麗な目が、私を優しく見詰めてくれる。
その状況とその言葉に、私は嬉しくも恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
──あれから十数年。
彼もすっかり大きくなり、私も一目で分かるほどに成長した。
人間年齢で言うと、もう18歳ぐらいだと思う。
そんな私は今日、殺生丸に会いに行くつもりだ。
最近の彼は旅をしているらしいけど、私にはどこにいるのかすぐ分かる。
長年一緒にいて、自然と匂いを覚えたのだから。
走って行けば、どんどん彼の匂いが強くなる。
もうすぐ…もうすぐ殺生丸に会える。
『その時は、私が#name#を嫁にもらってやる』
その言葉を、彼はちゃんと覚えているのかな。
次第に見えて来たあの長い白銀の髪は相変わらず私より綺麗だ。
確かに大きくなってはいるけれど、やっぱり殺生丸は殺生丸。
何も変わってないように見える。
すると彼も私の匂いに気付いたのか、こっちへ振り返った。
相変わらず綺麗な顔立ち。
ほらね、何も変わらない。
「殺生丸!」
私は勢いよく彼に飛び込んだ。
こんなことするのは何年振りだろう。
久し振りすぎて、加減がちっとも分からなかった。
だけど殺生丸は私をしっかり受け止めてくれて。
足が地面に届いてない私を下ろすと、殺生丸はあの大きな手で私の頭を軽く撫でてくれた。
「久し振りだな、#name#」
「ずっと会いたかったんだからっ」
「そうか」
そう言いながら、殺生丸は小さく微笑んでくれた。
殺生丸の仕草ひとつひとつが、全て懐かしく感じる。
それと同時に、あの時の言葉を思い出した。
「ねえ、殺生丸」
「何だ」
「小さい頃のあの言葉…覚えてる?」
「言葉…?」
訝しげな表情をする殺生丸に、ほんの一瞬胸がちくりと痛んだ。
もしかして、殺生丸はあの時のことを覚えてなかったの?
私はいつも忘れなかったのに…。
肩を落とす私は、端から見ても分かるぐらいに落ち込んでると思う。
そんなことを思っていると、殺生丸が急に私の体を抱き寄せた。
「私の嫁に来い」
「…!」
「過去のことなどに興味はない。…今の言葉は、今の私からだ」
そう言うと、今度は私を強く抱き締めてくれた。
殺生丸の体温が直に伝わって来る。
なんだ、結局覚えてたんじゃない。
一杯食わされちゃったな。
悔しいけれど、嬉しいから。
当分の間はこのままでいてあげる。
end.
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