過去より今を
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私は親同士の関係で、幼い頃から殺生丸と会ったりすることが結構あった。 殺生丸はいつも落ち着いてて。 子どもだけで遊びなさいと言われ残された私は、殺生丸と遊ぶと言うよりも話し掛けることの方が多かった。 「殺生丸はいつも何を考えてるの?」 「何も考えてはおらん」 「そう?私には何か考えてるように見えるなあー」 そう言いながら、どこかを見つめる殺生丸の顔を覗き込んだ。 年齢なんてほとんど変わらないのに、殺生丸はすごく大人びて見える。 それがどこか羨ましくて…どこか、好きだった。 「ねえ、私がけっこんしたら、殺生丸はどうする?」 「結婚など出来るのか?」 「んー…、…むりかも」 よく考えてみれば、私には結婚する相手がいない。 だから結婚も出来ないのだ。 私はその話をなかったことにするかのように笑って見せた。 「けっこんなんてまだ早いもんねー。あ、でもいつかはしてみたいなあー」 「………」 「殺生丸?」 「…その時は…」 急に黙り込んだと思えば、ぽつりと言葉をもらす殺生丸。 その先の言葉が何なのか知りたくて、私は黙って殺生丸を見つめていた。 「その時は、私が#name#を嫁にもらってやる」 彼方を見詰めていた視線が私へ向く。 黄金色の綺麗な目が、私を優しく見詰めてくれる。 その状況とその言葉に、私は嬉しくも恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。 ──あれから十数年。 彼もすっかり大きくなり、私も一目で分かるほどに成長した。 人間年齢で言うと、もう18歳ぐらいだと思う。 そんな私は今日、殺生丸に会いに行くつもりだ。 最近の彼は旅をしているらしいけど、私にはどこにいるのかすぐ分かる。 長年一緒にいて、自然と匂いを覚えたのだから。 走って行けば、どんどん彼の匂いが強くなる。 もうすぐ…もうすぐ殺生丸に会える。 『その時は、私が#name#を嫁にもらってやる』 その言葉を、彼はちゃんと覚えているのかな。 次第に見えて来たあの長い白銀の髪は相変わらず私より綺麗だ。 確かに大きくなってはいるけれど、やっぱり殺生丸は殺生丸。 何も変わってないように見える。 すると彼も私の匂いに気付いたのか、こっちへ振り返った。 相変わらず綺麗な顔立ち。 ほらね、何も変わらない。 「殺生丸!」 私は勢いよく彼に飛び込んだ。 こんなことするのは何年振りだろう。 久し振りすぎて、加減がちっとも分からなかった。 だけど殺生丸は私をしっかり受け止めてくれて。 足が地面に届いてない私を下ろすと、殺生丸はあの大きな手で私の頭を軽く撫でてくれた。 「久し振りだな、#name#」 「ずっと会いたかったんだからっ」 「そうか」 そう言いながら、殺生丸は小さく微笑んでくれた。 殺生丸の仕草ひとつひとつが、全て懐かしく感じる。 それと同時に、あの時の言葉を思い出した。 「ねえ、殺生丸」 「何だ」 「小さい頃のあの言葉…覚えてる?」 「言葉…?」 訝しげな表情をする殺生丸に、ほんの一瞬胸がちくりと痛んだ。 もしかして、殺生丸はあの時のことを覚えてなかったの? 私はいつも忘れなかったのに…。 肩を落とす私は、端から見ても分かるぐらいに落ち込んでると思う。 そんなことを思っていると、殺生丸が急に私の体を抱き寄せた。 「私の嫁に来い」 「…!」 「過去のことなどに興味はない。…今の言葉は、今の私からだ」 そう言うと、今度は私を強く抱き締めてくれた。 殺生丸の体温が直に伝わって来る。 なんだ、結局覚えてたんじゃない。 一杯食わされちゃったな。 悔しいけれど、嬉しいから。 当分の間はこのままでいてあげる。 end.