夢にまで見た恋だった
▼ ▲ ▼
ありふれた普通の村。 私はその村の何ら変わりないただの娘だった。 でも他とは違うことが1つだけ…。 隣近所の女の子たちとは違うことが1つだけあった。 ──恋をしたことがない。 私の周りの女の子たちはみんな、この村の男の人や外の村の男の人を好きになっていく。 家事が終わるとよくみんなで集まって話をする。 けれど私はいつもついて行けない。 馬鹿にされたこともあるし、応援されたこともある。 恋をしてみたいけれど、私が好きになる人なんてこの辺には全然見当たらなかった。 「東の村のヒトがすごく格好よかったの!それにとーっても優しかったのよーっ」 「あたいの好きな人の方が格好いいわ!」 「どっちも見てみたいわあっ。ね、#name#!」 「…うん、そうだね」 今日もまた集まって話をする。 私はそこで愛想笑いを振り撒いて相槌を打つだけ。 私は喋れない…ついて行けないもの。 つまらない…雨でも降って、この話終わっちゃわないかな…。 ふと空を仰ぎ見ると、何かがこちらに近づいて来るのが見えて。 何だろうと目を凝らしていると、隣家のおじさんが大声を上げた。 「妖怪だ!!」 妖怪…!? よく見ると、近付いて来るそれは本当に妖怪で。 それも1匹や2匹ではなく、多数の妖怪がいた。 村のみんなが慌てて武器や農具を構える。 ──けれど、相手は妖怪。 相打ちの人もいれば、やられる人も多数いて…私は立ち竦んでしまった。 その瞬間を妖怪に見られてしまい、1匹の妖怪が私の方へ向かって来る。 やだっ…やられる──!! 「はッ!」 肉が斬れるような嫌な音が響く。 そして辺りでぼとぼとと何かが落ちる音が聞こえて、私はゆっくり目を開いた。 すると目の前にはもう妖怪はいなくて。 鎖鎌を持った男の子が、私の前に立っていた。 「君、大丈夫?」 「え…あっはい、大丈夫です…!」 「よかった」 にこ、とはにかむ男の子。 もしかして…この人が私を助けてくれたの? 辺りを見ると、男の子と同じような服を来た人たちが妖怪を退治してくれている。 「妖怪はおれたちが片付けるから、どこか安全な場所に隠れてて」 「は…はい」 言われた通り、小屋の中に身を隠していると段々と騒ぎが小さくなって。 ようやく静かになった頃、小屋から出るともう妖怪たちは跡形もなく片付いている。 あの男の子が言った通りだった。 傷を負った村の人の手当てをしている人たちの中に、あの男の子がいるのを見つけた。 「あ、あのっ…」 「ん?」 「私、#name#って言います…さ、さっきは…ありがとうございました…!」 「ううん、当然のことをしたまでだよ。おれたちは退治屋だからね」 また柔らかく微笑んでくれた。 とても優しい、暖かな微笑み…。 この人を見てると、すごく温かくなる。 「あ、あなたの名前──」 「琥珀ーっ、もう行くよー!」 「あ、はーい!ごめん#name#さん、もう戻らないと…じゃあっ」 先に行く退治屋さんたちの方へ、私に手を振りながら走って行く。 琥珀、くん…。 彼のことを思うと、何だか胸が高鳴る。 もっと見ていたい、もっと話したい。 またいつか、会えるかな…。 end.