◆ 愛して愛されて
「お美しい…。どうか私の子を産んでみる気はありませんか?」
「え…?」
「どうか私と───」
「はいはい、もう終わり。いい加減にしなさい、弥勒さま」
「……はい」
襟首を掴まれ、私はずるずると#name#に引きずられて行く。
#name#の目が恐ろしい。
"また"私の癖が出てしまったな…。
私は#name#と付き合っていると言うのに。
途中で離してもらい、私と#name#は散歩するように歩いていた。
さっきはまた美しい方を見かけて、ついつい話し掛けてしまったが。
再び#name#によって止められた。
もう私が誰にも話し掛けないようにするためなのか。
次第に私たちは、人気のない道の方に歩いてきていた。
「#name#さま、何故このような場所に?」
「…2人の約束、忘れたの?」
「いえ…覚えてますよ、"#name#"」
私たちの約束。
それは私が#name#の告白を受け入れた日に作られたものだ。
──2人でいる時は、敬語でもいいから"さま"なんて付けないこと──
以後、私と#name#は忘れることなく、2人の時には呼び捨てだった。
さっき"さま"を付けたのは、ほんの冗談のつもりだったが…。
どうやら#name#には、冗談に聞こえなかったらしい。
「…で、何でこんな場所に?」
最初と同じ疑問を投げ掛けた。
未だにここへ来た理由が、私には理解できない。
すると#name#は、急に俯いては背を向けた。
「…弥勒が、私をすっぽかすばっかりだから…」
「……」
返す言葉が見当たらず、私はつい黙ってしまった。
何となくで、こんなことを言われるのは予想していたが。
まさか、本当に言われるとは…。
「えっと…すまない…」
「………」
しまった…。
とりあえず謝っておけばいいと思ったが、逆効果だったか。
気まずい沈黙が、私たちを包む。
どうも私は、こう言う時の対処法は身に付けていないようだ。
何せ、初めて付き合うのが#name#だからな…。
今までの経験で学んだりなんて出来るわけがない。
「ねぇ…弥勒?」
「…?」
「私のこと、本当に好き…?」
一瞬、私は耳を疑った。
何を言ってるんだ#name#は。
好きだからこそ、こうやって一緒にすごしているのに。
「好きに決まってる…」
「じゃあ何で…他の女の人にばっかり話しかけるの…っ?」
私の答えに、目を潤ませる#name#。
どうして泣くんだ…。
確かに、私が色んな女性に話掛けるのはよくないと思っている。
だが、それは#name#の気を引くためにやっていることで。
決して#name#を傷つけようと思ってやっているんじゃない。
次第に溜まりに溜まり、一筋の線を描く涙を見てしまった。
私は何だか居たたまれない気分になる。
──気付いた時、私は#name#を強く抱きしめていた。
「…全部、お前に気にして欲しくて…愛されたくてしていたんだ…」
「……っ!」
#name#の息を飲む音が、耳元で聞こえた。
今の#name#は、何を思っているんだろう。
今の#name#は、どんな表情をしているんだろう。
やたらと気になって、心拍数が上がる。
これだけきつく抱きしめていると、それも分かってしまうんだろうか。
ほんの少し、腕の力を緩めた途端だった。
「馬鹿っ…!」
「!」
ぐっと体を抱きしめられる感触。
私は驚いてしまい、ふと#name#の顔を見下ろした。
「私はずっと…ずっと弥勒のこと愛してるのっ!」
「#name#…」
「弥勒よりもずっとずっと、愛してるんだから…っ」
「……すまない、#name#。気付いて…やれなくて…」
再び#name#の華奢な体を抱きしめる。
すると#name#はゆっくりと顔を上げ、私の目を真っ直ぐに捕らえた。
そして片腕を私から離し、涙を拭うと、
「…もう、いいよ。今までのことは忘れて…これからもずっと、愛し合えばいいから」
柔らかく微笑んで見せた。
#name#は許してくれるのか?
#name#を傷つけてしまった私を…。
だが、#name#の頬笑みを見ていると、そんな思いはどうでもよく感じた。
end.
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