愛して愛されて

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「お美しい…。どうか私の子を産んでみる気はありませんか?」 「え…?」 「どうか私と───」 「はいはい、もう終わり。いい加減にしなさい、弥勒さま」 「……はい」 襟首を掴まれ、私はずるずると#name#に引きずられて行く。 #name#の目が恐ろしい。 "また"私の癖が出てしまったな…。 私は#name#と付き合っていると言うのに。 途中で離してもらい、私と#name#は散歩するように歩いていた。 さっきはまた美しい方を見かけて、ついつい話し掛けてしまったが。 再び#name#によって止められた。 もう私が誰にも話し掛けないようにするためなのか。 次第に私たちは、人気のない道の方に歩いてきていた。 「#name#さま、何故このような場所に?」 「…2人の約束、忘れたの?」 「いえ…覚えてますよ、"#name#"」 私たちの約束。 それは私が#name#の告白を受け入れた日に作られたものだ。 ──2人でいる時は、敬語でもいいから"さま"なんて付けないこと── 以後、私と#name#は忘れることなく、2人の時には呼び捨てだった。 さっき"さま"を付けたのは、ほんの冗談のつもりだったが…。 どうやら#name#には、冗談に聞こえなかったらしい。 「…で、何でこんな場所に?」 最初と同じ疑問を投げ掛けた。 未だにここへ来た理由が、私には理解できない。 すると#name#は、急に俯いては背を向けた。 「…弥勒が、私をすっぽかすばっかりだから…」 「……」 返す言葉が見当たらず、私はつい黙ってしまった。 何となくで、こんなことを言われるのは予想していたが。 まさか、本当に言われるとは…。 「えっと…すまない…」 「………」 しまった…。 とりあえず謝っておけばいいと思ったが、逆効果だったか。 気まずい沈黙が、私たちを包む。 どうも私は、こう言う時の対処法は身に付けていないようだ。 何せ、初めて付き合うのが#name#だからな…。 今までの経験で学んだりなんて出来るわけがない。 「ねぇ…弥勒?」 「…?」 「私のこと、本当に好き…?」 一瞬、私は耳を疑った。 何を言ってるんだ#name#は。 好きだからこそ、こうやって一緒にすごしているのに。 「好きに決まってる…」 「じゃあ何で…他の女の人にばっかり話しかけるの…っ?」 私の答えに、目を潤ませる#name#。 どうして泣くんだ…。 確かに、私が色んな女性に話掛けるのはよくないと思っている。 だが、それは#name#の気を引くためにやっていることで。 決して#name#を傷つけようと思ってやっているんじゃない。 次第に溜まりに溜まり、一筋の線を描く涙を見てしまった。 私は何だか居たたまれない気分になる。 ──気付いた時、私は#name#を強く抱きしめていた。 「…全部、お前に気にして欲しくて…愛されたくてしていたんだ…」 「……っ!」 #name#の息を飲む音が、耳元で聞こえた。 今の#name#は、何を思っているんだろう。 今の#name#は、どんな表情をしているんだろう。 やたらと気になって、心拍数が上がる。 これだけきつく抱きしめていると、それも分かってしまうんだろうか。 ほんの少し、腕の力を緩めた途端だった。 「馬鹿っ…!」 「!」 ぐっと体を抱きしめられる感触。 私は驚いてしまい、ふと#name#の顔を見下ろした。 「私はずっと…ずっと弥勒のこと愛してるのっ!」 「#name#…」 「弥勒よりもずっとずっと、愛してるんだから…っ」 「……すまない、#name#。気付いて…やれなくて…」 再び#name#の華奢な体を抱きしめる。 すると#name#はゆっくりと顔を上げ、私の目を真っ直ぐに捕らえた。 そして片腕を私から離し、涙を拭うと、 「…もう、いいよ。今までのことは忘れて…これからもずっと、愛し合えばいいから」 柔らかく微笑んで見せた。 #name#は許してくれるのか? #name#を傷つけてしまった私を…。 だが、#name#の頬笑みを見ていると、そんな思いはどうでもよく感じた。 end.

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