惚れ薬の力

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「#name#、わしの嫁となれ」 「……は?」 がっしりと肩を掴まれ、そんなことを言う彼、奈落。 彼はさっきから私に向かって、彼らしくない言葉を吐き続けている。 ──ひょんなことからこれは始まった。 私はいつものように奈落のそばに駆け寄っていた。 うざそうな顔をする奈落をよそに、一方的に話しかける私。 これはもう日常茶飯事。 彼のうざそうな顔も、見るのが楽しくなってきた。 私はそろそろ末期なのかも。 と思いながら今日の出来事など、色々と聞かせていた頃だった。 「奈落ー。ほら、お茶」 いつもの如く、気だるそうに神楽がお茶を運んで来る。 奈落の手元にそれを置くと、神楽は私の方に視線を向けた。 「#name#も毎日懲りないねぇ。ちょっとばかし尊敬するよ」 「だって楽しいじゃん」 「奈落は聞いてないと思うけど?」 「それでもいいの!」 「へー…あんた変わってるね…」 最早呆れた目で見下されてしまった。 ちょっと待て、私そんな目で見られるようなこと、してないぞ? 怪訝そうな目で神楽を見てやると、苦笑されて。 そこで神楽は部屋を後にしようと、戸に手を掛けた。 しかもそのまま立ち止っている。 そしてポンっと手を叩くと、振り返って来た。 「そうだ。今日のお茶、白夜が作ったから」 「…白夜が?」 意外な人物の名前が出て、だんまりだった奈落も反応を見せた。 私の話には反応してくれないのにね。 てかあいつ、お茶作れるんだ。意外。 私が感心していると、怪訝そうに奈落がお茶を見つめていた。 「どうかしたの?」 「白夜め……何を仕込んだのやら…」 不気味な笑みを浮かべる奈落。 さすがラスボス。 そんな笑みが似合ってるけど正直怖いです。 「毒でも入れられてたのかい?」 「どっ毒!?」 神楽の口から平然と物騒な言葉が出るもんだから、かなりびっくりした。 おかしいでしょう毒なんて。 そんなもの使っちゃいけませんよ! でも奈落の反応に、焦りは全く見られなかった。 「そんなものでわしは死なん。それにこれは毒ではない」 「そうなの?てか分かるとか凄いね!」 「#name#。観点ずれてる」 神楽の素早いツッコミを華麗にスルーする私。 だって私の観点ずれてないもの。 毒が分かるなんて、凄いの他ないよ! そんなことを考えていると突然、奈落が自身の顔を手で覆った。 「な、何ごと!?」 私が驚いて一歩後ずさる。 すると、奈落は小さなうめき声をひとつ上げ、ゆっくりと顔を上げた。 その顔がこちらに向き、ばちっと目が合う。 そのまま視線を外そうとしない奈落。 さすがの私でも、見つめられると照れるんですが…! 「#name#、」 急に名前を呼ばれ、心臓が跳ねあがった。 いつもの奈落の声ではない。 何と言うか…少し、甘い感じの声だった。 荒らぶる鼓動を抑え、はい?と返事をする。 「愛している」 「ぶッ!?」 「やはり美しいな、#name#は」 「なッな、な…!!」 ───そして現在に至る。 甘さたっぷりの奈落さんは現在、私にべったりです。 さっき笑いながら部屋に入って来た白夜の話によると、 『いわゆる、惚れ薬ってやつを入れておいた』 だそうです。 ふざけやがって…!! 私の大事な奈落のイメージがぶち壊しだよ! 怒りを覚える私をよそに、奈落は気味の悪い笑みを浮かべていた。 どうやらこの効果を消すには、惚れられた人──つまり私が、奈落に接吻とやらをしなきゃいけないらしい。 現代で言うキスですね。 恥ずかしくて出来るわけない! 「来い#name#、接吻をしようではないか」 「無理だからーっ!!」 end.

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