◆ 惚れ薬の力
「#name#、わしの嫁となれ」
「……は?」
がっしりと肩を掴まれ、そんなことを言う彼、奈落。
彼はさっきから私に向かって、彼らしくない言葉を吐き続けている。
──ひょんなことからこれは始まった。
私はいつものように奈落のそばに駆け寄っていた。
うざそうな顔をする奈落をよそに、一方的に話しかける私。
これはもう日常茶飯事。
彼のうざそうな顔も、見るのが楽しくなってきた。
私はそろそろ末期なのかも。
と思いながら今日の出来事など、色々と聞かせていた頃だった。
「奈落ー。ほら、お茶」
いつもの如く、気だるそうに神楽がお茶を運んで来る。
奈落の手元にそれを置くと、神楽は私の方に視線を向けた。
「#name#も毎日懲りないねぇ。ちょっとばかし尊敬するよ」
「だって楽しいじゃん」
「奈落は聞いてないと思うけど?」
「それでもいいの!」
「へー…あんた変わってるね…」
最早呆れた目で見下されてしまった。
ちょっと待て、私そんな目で見られるようなこと、してないぞ?
怪訝そうな目で神楽を見てやると、苦笑されて。
そこで神楽は部屋を後にしようと、戸に手を掛けた。
しかもそのまま立ち止っている。
そしてポンっと手を叩くと、振り返って来た。
「そうだ。今日のお茶、白夜が作ったから」
「…白夜が?」
意外な人物の名前が出て、だんまりだった奈落も反応を見せた。
私の話には反応してくれないのにね。
てかあいつ、お茶作れるんだ。意外。
私が感心していると、怪訝そうに奈落がお茶を見つめていた。
「どうかしたの?」
「白夜め……何を仕込んだのやら…」
不気味な笑みを浮かべる奈落。
さすがラスボス。
そんな笑みが似合ってるけど正直怖いです。
「毒でも入れられてたのかい?」
「どっ毒!?」
神楽の口から平然と物騒な言葉が出るもんだから、かなりびっくりした。
おかしいでしょう毒なんて。
そんなもの使っちゃいけませんよ!
でも奈落の反応に、焦りは全く見られなかった。
「そんなものでわしは死なん。それにこれは毒ではない」
「そうなの?てか分かるとか凄いね!」
「#name#。観点ずれてる」
神楽の素早いツッコミを華麗にスルーする私。
だって私の観点ずれてないもの。
毒が分かるなんて、凄いの他ないよ!
そんなことを考えていると突然、奈落が自身の顔を手で覆った。
「な、何ごと!?」
私が驚いて一歩後ずさる。
すると、奈落は小さなうめき声をひとつ上げ、ゆっくりと顔を上げた。
その顔がこちらに向き、ばちっと目が合う。
そのまま視線を外そうとしない奈落。
さすがの私でも、見つめられると照れるんですが…!
「#name#、」
急に名前を呼ばれ、心臓が跳ねあがった。
いつもの奈落の声ではない。
何と言うか…少し、甘い感じの声だった。
荒らぶる鼓動を抑え、はい?と返事をする。
「愛している」
「ぶッ!?」
「やはり美しいな、#name#は」
「なッな、な…!!」
───そして現在に至る。
甘さたっぷりの奈落さんは現在、私にべったりです。
さっき笑いながら部屋に入って来た白夜の話によると、
『いわゆる、惚れ薬ってやつを入れておいた』
だそうです。
ふざけやがって…!!
私の大事な奈落のイメージがぶち壊しだよ!
怒りを覚える私をよそに、奈落は気味の悪い笑みを浮かべていた。
どうやらこの効果を消すには、惚れられた人──つまり私が、奈落に接吻とやらをしなきゃいけないらしい。
現代で言うキスですね。
恥ずかしくて出来るわけない!
「来い#name#、接吻をしようではないか」
「無理だからーっ!!」
end.
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