相合傘日和

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いつものように枯れ井戸を通り、戦国時代へやって来る。 するとそこは、かなりの雨が降っていた。 一応、傘は持って来ている。 けれど1人分…自分の分しか持っていなくて。 あの人を思うと、もう1人分いることに気付いた。 「どうしよう…取りに帰ろうかな」 踵を返し、井戸の縁に足を掛けたが、その間にもあの人が濡れて、風邪でもひいたら…。 そんな嫌な考えを消すように、ふるふると頭を振った。 そして井戸に背を向け、あの人の元へ駆け出した。 走っている内に、あの人の姿が見えてきて。 よく見ると、やっぱりびしょ濡れになっていた。 「蛮骨ーっ!」 気付いてもらえるように、大きく手を振る。 すると蛮骨もこちらに気が付いて、手を振り返してくれた。 「#name#、来たのか!」 「うんっ早く蛮骨に会いたくて!」 蛮骨のそばへ駆け寄り、持っていた傘を差し出した。 きょとん、とした蛮骨の顔。 思わず可愛いなぁ…なんて思ってしまって。 顔を綻ばせていると、蛮骨が心配そうな表情で言ってきた。 「#name#はどうすんだ?俺が使ってたら、#name#の分がねえだろ?」 「大丈夫だよ?私の分は現代に取りに戻ればいいもん」 笑顔で言うが、蛮骨は納得がいかないようで。 私の手元に、ぐいっと傘を押し付けてきた。 「俺こそ大丈夫だから。むしろ、#name#が風邪ひくのが嫌だ」 「蛮骨…。で、でも私だって、蛮骨が風邪ひくの嫌っ」 押し付けられた傘を、負けじと押し返す。 多分、また同じようなことを言われて、再び押し返されるだろう。 そう考えた私は、さっと蛮骨に背を向けて走りだした。 ──つもりだった。 気付いた頃には強く腕を引かれ、そのまま蛮骨に抱きしめられてしまう。 「ばっ蛮骨…!?」 「こうしてくっついてりゃ、1つの傘でも濡れねえだろ?」 蛮骨に言われてやっと気付いた。 確かにくっついているおかげで、2人共傘の下に収まっている。 気付いたことを察したのか、蛮骨が「なっ?」と笑いかけてくれた。 私は笑顔で頷き、私は蛮骨の胸に顔をうずめた。 高鳴る鼓動に、気付かれてないかな。 なんて心配は、嬉しさに溶けて消えていった。 end.

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